Task.31 亡国の炎

報告書を書けといっても聞かない映士に、さくらは言葉を飲み込んで立ち去ってしまう。言いたい事を言わないさくらに映士はイラつく。
感情を表に出さずに飲み込んでしまうさくらに対し、映士とて人間離れした生い立ちでもあり、さほどコミュニケーションが上手いとは思われないのですが……。


エスターが張った結界を破るためには結界の中に入らなければならない。それができるのは高丘流の技を極める映士のみ。全員を連れては無理ということで、さくらが一人同行を申し出る。
さくらは、皆の前では結界以外にも罠があるかもという理由で同行を申し出たが、実際はクエスターに対して遺恨のある映士の行動を信用していないという部分もあった。結界を破るよりも、クエスターを倒してしまった方が早いとか言い出しかねない、と。
映士はさくらに不信の念を抱かれてることを感じてそのことを追及する。だったら皆の前でそう言えばいいじゃないか、言いたい事があるのになぜ言わない、と。
一方、結界を抜けるために傷を負った映士に、さくらはなぜ最初に言ってくれなかったのかと詰め寄る。
言いたいことを言わないのはお互い様だ。だが、映士は一緒にするなと言う。言っても仕方ないことは言わない、と。


結界の中に入れるのは映士しかおらず、それしか方法が無いのだから、映士が傷を負うことがわかっていても、結局やるしかない。その意味では言っても仕方ないことです。さくらが言いたいことを言わないで飲み込んでしまうのとは違います。
「言いたい事を言った方がいいのかどうか」という命題とは別に、「言いたい事だけど言うべきでない事を、それでも言った方が良いのかどうか」という命題が微妙に交錯しています。
子供にこの微妙な違いが分かるかな? ちょっと大人なテーマ設定ですね。
さくらが言いたい事を言わないというのも、皆の前で映士を疑うのはいたずらに事を荒立てる行為であって、「言うべきでない」という要素が含まれますし。映士の言っても仕方ないことは言わないというのも、予め分かっていれば、鎮痛剤だけでなく治療薬の用意もできただろうし、さくらを同行させることで傷がより重くなったりするのなら、あえてさくらも同行を申し出ず別の作戦を立てることもあり得たわけだから、「言っても仕方ない」「言うべきでない」とも言い切れません。やっぱりその境界は微妙です。


結局この2人はそういう点では似た者同士。2人の協力ミッションを経て、さくらは自分の生い立ちを語る程度に気持ちを開き、映士はさくらへの理解を深めます。
さらに映士がクエスターにやられて重傷を追い、普段は感情を表に出さないさくらが、感情を爆発させます。プレシャス亡国の炎を使ったクエスターロボの攻撃に対し、正面からでなく回り込んでと作戦を立てるメンバーをよそに、さくらが独断専行で気合だけで正面から突っ込みます。


この後が絶妙。他のメンバーは病室に付き添って映士が目覚めるのを待ってたのに、映士の重傷にこれだけ感情を爆発させたさくらは、映士の命に別状は無いとわかったら、私がそばにいたって無駄ですからとばかりにパフェなんかを食べに行っちゃってます。感情が欠落してるんじゃないかと思うような、いつも通りの冷静沈着なさくらです。
そういうさくらを「気に入らない、か?」と明石が聞くと、映士は「さあな」と笑って答える。映士の方にはさくらへの理解が深まった様子が見て取れます。さくらにしてもそれは同じでしょう。でも、さくらの性格は結局のところは変わってません。変わったのは仲間に対する理解の度合いです。


人はそう簡単には変わらない。どこかで見たフレーズ…というまでもなく、実写版セーラームーンのAct.5ですな。
はい、ご推察の通り、今回のボウケンジャーの脚本は小林靖子でした。
明らかな正解や教訓を用意するわけでなく、人間像が変わるわけでもなく、それでも何か前進する。微妙に前に進む。
こういう話を子供番組で書ける小林靖子という人はすごい、と改めて思います。