続「プラス1の戦士」考 〜水野亜美にみる戦隊との関連性について〜

ikidomariさんからいただいたコメント*1についてちょっと考察してみたい。

水野亜美の戦線離脱〜復帰の期間(act.21〜28)は、戦隊ものの歴史からみて、妥当な期間だったといえるのでしょうか。

これは戦隊の歴史と比較すると、かなり異色だと思う。味方の戦士が操られるなどして一時的に敵側に走るケースはそれなりにあるが、これだけ長期間というのは滅多に無い。
当初から敵対者として登場する「プラス1の戦士」の場合なら、敵対期間が1クール以上に及ぶ場合もよくあるが、それでも一度味方になった後また敵になるケースというのはまず稀だし、あっても長期化はしてないはずだ。


戦隊シリーズは特撮物の中でも対象年齢が低めに設定されているというのが一番大きな要因だと思うが、たいていは1話完結で、ときどきは前後編もあるが、3話以上の続きエピソードというのはほとんど無い。だからそれ以上の長期にわたって敵側に走ってしまうようなストーリーは作りにくいという事情もあるだろう。
最初は敵だった者が味方になる分には心強いが、味方が敵に走るというのは裏切り行為である。小さなお子様からすれば、作り話だと割り切って楽しむような見方はしないわけだから、味方になっているものを敵に走らせるというのは、そのキャラクターの人気を失墜させかねないリスクも伴う。


このように対象年齢での制約を受けている部分があるため、戦隊では珍しい事例だからといって、これをもって戦隊とセーラームーンはやはり全く別物なのだという結論は早計であろう。
実はこの水野亜美に近い事例も無いではない。


最も近い例は、先のコメント*2でも書いたアバレブラックだろう。生死不明となり(32話ラスト)、暗黒の鎧をまとった謎の戦士として再登場(35話)、途中は敵対もし、正気を取り戻して仲間に復帰するまで(40話)、ほぼ同じくらいの期間をかけている。
アバレブラックは「プラス1の戦士」という位置付けで考えるべきキャラではあるが、同時にスタメン戦士としての特性ももっている特異なキャラである。最初から登場はしており、本来なら「第1の戦士」なのだが、最初は変身能力を失っていたために、いわゆるスタメン扱いになっていないのだ。こういう特異なキャラに似ている水野亜美というのもまた、かなり特異なキャラであると思う。


ちなみに、純粋なスタメン戦士で敵対する者としては、最近では轟轟戦隊ボウケンジャーのボウケンイエロー/間宮菜月がある。レムリア文明の生き残りであることが分かり、それに伴って敵に操られ、前後編の2話に渡ってボウケンジャーと敵対した。
ボウケンイエローはこれ以前にも、架空の妹になりすました別の敵に騙され操られて敵対したエピソードがある。通算で3話分裏切るというのは、スタメン中では突出して高い方ではないだろうか。初期には自分の出自を知るために敵と接触したところを仲間に見咎められて疑われるというようなシーンもあり。そういえば、ロボで走り回って敵もろともに仲間まで踏んづけかけたこともあったなあ。改めて考えると意外と裏切り属性の高い女である(笑)


敵対というほどではないが、終始レッドと反目している者なら、鳥人戦隊ジェットマンブラックコンドル/結城凱が筆頭だろうか。時に殴り合いの喧嘩もしている。
ブラックコンドルについては、3話目でようやく仲間になったり、平時は基地よりも行きつけのバーにいることの方が多かったり、最終回に死亡したりと、「プラス1の戦士」の属性の片鱗が見て取れる。この次の作品である恐竜戦隊ジュウレンジャーから6番目戦士が導入されているが、このように立ち位置が異なる戦士を投入することで、話に広がりと奥行きを持たせることができるというのは、実はジェットマンで既に実証された手法だといえそうである。
付言すれば、上述の対象年齢の話で言うと、ジェットマンは大人の視聴をかなり意識した作品となっている。対象年齢をあえて低く設定しなければ、このような長期的な反目キャラや敵対キャラを入れ得るという一つの証左かもしれない。


さて、以上のように、アバレブラックにしてもブラックコンドルにしても、やや特異なキャラながら「プラス1の戦士」的な属性を持っている。それらと水野亜美の現象が符合するというのはいったい何を意味するのだろうか。


思うに、セーラームーンにおいて、「プラス1の戦士」属性は多くは愛野美奈子に託された。ただ彼女に100%背負わせるのではなく、一部は水野亜美にも振り分けられたと考えるのだが、どうだろう。
セーラームーンは実写版独自で存在するものではもちろんなく、月火水木金の5人の戦士は実写版が成立する以前の既定事実としてワンセットである。本来ならそこに「プラス1の戦士」など持ち込む余地は無い。
しかしあえて戦隊で実績を挙げた東映が、もしくは戦隊の脚本経験も持つ小林靖子が、「プラス1の戦士」を持ち込もうと考えたとき……。その結果として生まれたのが、実写版の愛野美奈子であり、水野亜美であると考えることができそうである。