仮面ライダー響鬼と七人の戦鬼

マジレンに続いて、仮面ライダー響鬼と愉快な仲間たち……じゃなくて七人の戦鬼の感想いきます。
本当にねえ、愉快な仲間たちって感じでしたよ。どいつもこいつもコミカルテイストで。


こっちは個人的にはちょっと予習し過ぎました。
そのせいで話の主軸としては1箇所を除いて全く意外性が無く…ちょっと勿体無いことをしました。


古来本邦に様々な伝承のある「鬼」という要素、それから「猛士」「古文書」といった古来からの鬼と魔化魍との戦いの歴史という背景を内在する響鬼ワールドにおいて、時代劇というのは、非常に親和性が高い上に時空間上の広がりを演出できる格好のテーマです。
というわけで、基本のコンセプトは非常に良かったんだけど…。
せっかくの響鬼ワールドを生かしきれてなかった感ありです。
またまた、以下ネタバレです。映画まだの人は注意。


まず、不満に思うところから羅列してしまいます。
その1はディスクアニマルです。
テレビ本編で、みどりさんが「昔はこういうのだったんだけど」と人型に切り抜いた紙を見せたことがありましたが、昔の鬼は、いわゆる式神を使役していたのです。それが技術の発展に伴って、より高機能な、もしくは使役方法や量産が容易な、ディスクアニマルに代わっていったというわけです。
私はこの設定がたいそう気に入っていたので、時代劇編がディスクアニマルだったのは正直がっかりでした。
しかも、実際映画を観てみると、古代のディスクアニマルは巨大化するし立体化するし、さらには無茶苦茶強いし、はっきり言って現代のものより断然高機能です。
そりゃ変です。それなら、みどりさんが一生懸命開発してるアレは何なんだ、って感じです。


その2は鬼の武器です。
凍鬼の銅鑼はまあ良いとしても、煌鬼のシンバル、西鬼のトライアングル、羽撃鬼のフルートはいただけませんね〜。
雅楽で使われるような和楽器が良かったなあ。
フルートは黙っておけば横笛で通用するからまだ良いですが、トライアングルはギャグにしかならない。総じて西鬼はギャグ扱いでしたが。
煌鬼もギャグ扱いで、初登場シーンでは凧に乗ってやってきますが、凧に乗るのはその時のみ。何で凧に乗る必要があったのか、さっぱりわかりません。


その3は対ヒトツミ戦です。
この映画では、敵キャラに魔化魍のオロチとその姫と童子、それからヒトツミ*1が出てきますが(あと裏切る歌舞鬼とその子分魔化魍1匹)、オロチはバトルロイヤルには加えられないので、姫と童子とヒトツミの3匹を、響鬼を含めた7人の鬼*2でなぶり殺しの形となります。
鬼の方が数が多いので、そこで狐顔の魔化魍忍軍(?)…要するにザコ戦闘員の登場です。
マジレンの方でも言ったけどさあ、戦闘員じゃ話盛り上がらないんだってば。
だいたい、ライダーに戦闘員は要らないんだってば。
また、ヒトツミはここで出てくるまで、ほとんどストーリーに絡むところが無いので、やられるためだけに配置されたような存在なのです。実際、凍鬼、煌鬼、西鬼、羽撃鬼がそれぞれの音撃武器を発動して見せるのはここだけ。しかもその音撃武器は上述の通り…orz
ヒトツミ自体の戦いぶりは妖術幻術たっぷりで、時代劇イメージともピッタリで良かったのですが、やられ方がねえ。多人数でボコるというのは、展開として鬱です。
結局、鬼は新しいのを5人も出さない方が良かったんですよ。マーチャンダイジングの悪影響がここにも出ています。


その4は、ラストのオロチ戦の描写です。
響鬼は最初にオロチに敗れて大怪我を負っています。それで再戦を挑むとなれば、テレビ版ならこういう場合に、威吹鬼轟鬼の協力を得るとか、さらに鍛えるとか、心機一転を図るとか、何かアクションがあるところなんですが、そういうのが無いんですよね。
結局、ここでの勝因は、音撃剣による強化変身なわけですが、そんなものは響鬼にすれば降って涌いたタナボタなわけで。
現代のシーンをクライマックスに持ってくるくせに、本編の中心はあくまで時代劇の方で、現代劇側の描き方はなおざりな感が否めません。
時代劇の方で鬼多過ぎな感があったので、威吹鬼轟鬼は時代劇には出さず、現代のシーンで活躍させた方が良かったんじゃないかなあ。武器もトランペットとエレキギターでは時代劇と合わないですし。


音撃剣の話をすると…。
これまでの響鬼が「鍛える」ことにより能力を得ることを強調してきただけに、アイテムでパワーアップというところに安易さを感じてしまうというのは確かにありますが、個人的には精神的な成長や何かとの感応や発奮なども力を出すきっかけの一つと思いますので、アイテムでのパワーアップを全面的に否定するものではありません。
ただ、昔の方の響鬼は、亡き弟子の魂が込められた剣ということで、それに感応して力を発揮するというのはOKですが、そういう経緯を全く知らず、ただ名前が同じというだけの現代の響鬼がパワーアップするというのは、あまりに根拠が乏しい。
例えば、鬼が作る剣*3には特別な力があり、それは言霊よろしく、彫られた名前を触媒に力を発揮するとか。もしくは昔の響鬼が、後にこれを使う者のために力を封じ込めたとか。何か一要素が欲しかったです。


その5は、鬼を取り巻く世界観です。これが一番でかい話になっちゃいますが。
本編の時代劇は鬼支援組織の「猛士」ができる前の時代の話で、鬼は人であることを捨てた者として、人々から忌み嫌われる存在として描かれています。
それは良いのですが、それでも「鬼の仕事は人を守ること」ということになっているというのは変です。
人を守るために頑張って鍛えた相手を忌み嫌うというのは、人の道としてどうかとは思うわけですが、超人的な者を怖れ警戒するというのも人間の真の姿の1つだと思いますので、それは良しとします。
しかし、そういう社会なら、好き好んで鬼になろうとする者がそうそういるとは思えません。現実の魔化魍の脅威のため、やむを得ず鬼になる道を選んだとしても、鬼であることを隠して、ひっそりと暮らしてそうなものです。
鬼でござ〜いと、のほほんと正体をさらして暮らす鬼が、7人も8人も集まる道理がわかりません。*4
こういう世界観ならば、鬼は自分の欲望を満たす方向で力を使うのが正しい。裏切った歌舞鬼は正しいし、泥棒に鬼の力を使う西鬼も正しい。立身出世の威吹鬼も正しいかも。あとの奴らは間違い。
もともと鬼というのは、伝承では悪役なのです。


伝承では、生成りというのがあるように、強烈な怨嗟や嫉妬で人間が鬼になるということがあるといいます。なりたいと思ってなるのではなく偶発的になってしまうものであり、また、たいていは負の感情によってなるため、悪者であるのが常です。
一方、仮面ライダー響鬼では、狂気によって鬼になるのではなく、人間が鬼になるという方法を技術体系として究めて、人間の精神のまま超人的な存在に変化する術を体得した者が鬼です。変身技術を体系化するため、TV本編では師弟関係を作り、猛士というネットワークを存在させています。
猛士もなく、見たところ弟子もいない*5この時代の鬼は、TV版の世界観に向かう過渡期であると考えられます。
とすれば、鬼というのは人外の者、半分狂気に染まったような者、という描き方の方が良かったのでは。その方が、人に忌み嫌われる者という状況とも整合が取れます。基本的に鬼は勝手気ままで乱暴者である、その中で響鬼と歌舞鬼だけややキャラクターが違う、威吹鬼轟鬼は時代劇編には出さない、この方が良かったんじゃないかと思うわけです。


その6は、細かいところですが、変身解いたら普通の服に戻るのとか。
テレビ版と設定が違いますね。
ここは時間の関係で略さないと仕様がなかったということかと思いますが、何か手を抜かれたようで嫌だなあ。テレビ版の方は異様に丁寧な作りだけに、一層そう思います。


長々と並べましたが、要するに、時代劇という舞台設定をあまり生かせていないのと、無駄に鬼の数が多いだけで、作りに粗雑さが感じられるところが不満なところです。


それでは今度は良いところや関心したところ。
その1。
現代におけるヒビキと明日夢の関係を、端的に一言で表しているところです。
本編は最初に魔化魍オロチの出現から始まり、ヒビキと明日夢が駆けつけて戦いに入りますが。
最初は、なんで魔化魍との戦いに明日夢を連れて来てるんだというのが疑問でした。乗ってるバイクも凱火じゃないし…。
と思っていたら、響鬼が「明日夢!」と叫んだので合点がいきました。
ご存知の通り、テレビ本編では、ヒビキさんはいつも明日夢を名前では呼ばず、「少年」と呼んでいます。
つまりこれは、テレビ版より少し先の話。明日夢がヒビキに正式に弟子入りして、鬼の修行を始めた以降の話なのですね。
これは映画の功績というより、呼び名一つにも気を遣っているテレビ版の丁寧な作りのおかげかも知れません。


その2。
響鬼vs歌舞鬼の戦いは見ごたえありでした。*6
単純に響鬼vs歌舞鬼では響鬼が強いと言いたいところですが、歌舞鬼は子分の魔化魍を引き連れて1対2ですし、歌舞鬼の唐傘を使った攻撃は、和風テイストという意味でも面白いし、戦い巧者ぶりを見せるという意味でも効果大で良かったです。


その3。
明日夢響鬼を恨んでいるという設定もいいですね。
兄の作った剣を響鬼に託すというシーンに、非常に重みが出てきます。
ただ、兄の死因が土砂崩れによる事故というのは、ヒビキが鬼を辞める理由としては弱い気がしますが。魔化魍との戦いに巻き込まれるとかの方が良かったような気はしますが。


その4。
それと、何といっても、時代劇というコンセプトは、生かしきれなかったとはいうものの、非常に良かったと思います。
これは歴代の仮面ライダーの中でも、響鬼でしかできないことですね。*7


役者の演技力はテレビでも十分良いことが分かってますが、映画オリジナルのカブキとかも、美しくて妖しい、いい感じが出ていました。
ドランクドラゴンの塚地とかもオイシイな、アレ。
音楽も良かったです。mcATの主題歌は、うちの奥さんも結構気に入っていました。


書いたのを読むといい所の方が少ない感じがしますが、いい所というのは言葉を尽くす必要は無いんですよ。イイもんはイイで済むから。
批判の方が字数を裂いてしまうのは世の常。賛成反対が同数なら、反対意見のレスが多く付くのも世の常ってことで。
なんだか、すごく長文になってしまった(笑)

*1:安倍麻美

*2:歌舞鬼は除外

*3:正確には鬼の弟子の剣だが

*4:ヒビキとハバタキはひっそりと暮らす部類に入るかな

*5:ヒビキには弟子がいますが、鬼としての弟子なのかどうかは定かでない

*6:ディスクアニマル巨大化はちょっと…ですが

*7:クウガ、アギト、ブレイド辺りは先史まで遡ればできなくはないですが(笑)