日々の未来

タイトルからしても気合を入れて臨んだ回だと思いますが。
よく分からない部分が多くて評価が難しい回ですな。
ヒビノミライ隊員がサコミズ隊長とミサキ総監代行に連れられて、先週遭難話をやったバン・ヒロトの父の住む邸を訪れるのですが……。


バン・ヒロトメビウスの人間体ヒビノミライのモデルであり、父親はその姿を見て驚くはずだが、それが無いということは、ある程度事前情報を得ているということになる。
ではどういう情報を得ているのか。
同行したサコミズ隊長とミサキ総監代行は、どこまで知っているのか。


ヒビノミライがウルトラマンメビウスだとバレているなら、普通に話は成り立つ。
でも、今後の展開からしてもそこはバレていないものとして話は進むだろうから、その可能性を無しとすると、いろいろ描写上の矛盾点が出てくる。


まず、ミライを含めた3人が伴家を訪れる経緯が不明だ。
バン・ヒロトの遺品の時計を届けるためと称してミライが行きたいと言い張ったのかな。彼には並々ならぬ思い入れがあるから、そう言ったとしても不思議は無い。伴氏はサコミズ隊長とは旧知のようだし、総監とも親交があるみたいだから、2人がついて来たのもうなずける。
ただ、コノミちゃんによれば、「隊長と総監代行に連れられてどこか行った」ということになっており、ミライが率先したという雰囲気は無いのが問題だ。無理に考えればミライが主張した場に居合わせなかっただけという解釈も成り立つが、そこをわざわざ不自然な描写にする意味は無い。
それに上司2人は挨拶を済ますとそそくさと帰ってしまう。明らかにミライを連れて来るのが目的で、その後は邪魔にならないよう席を外したという格好だ。
ミライはやはり率先して来たのではなく、2人に連れてこられたのだろう。


とすれば、2人は何故ミライを連れて来たのか。
単にバン・ヒロトと似ているからか? それが分かるのは伴パパだけだから*1、伴パパがどこかで見初めて、是非連れてきてくれという要望を出したのか?
それにしては伴パパのリアクションがおかしい。
ミライが来たのを歓迎している風でもない。単に息子とよく似た赤の他人に接する風でもなく、かといって息子と勘違いするボケ老人風でもない。息子のことをよく知る人で、わけあって息子の姿を真似ている人だということをわきまえているかのような接し方だ。
もちろん普通の地球人に息子の姿を真似るなんてことはできないのだから、伴パパに関しては、ミライの正体は露見しているようなものだ。それ以外に考えようがない。


となると、次に気になるのはサコミズ隊長たちがどこまで知っているのかだ。
ミライの正体を知らずして、あえてミライを連れて来て、気を利かせて去るなんてことがあり得るだろうか。
それでは、赤の他人なのに「さあ、あなたの息子と思って可愛がってやってください」と言って置いてきたに等しいではないか。置き去りにされた方は人身御供に出されたようなものだ。人身売買だ。
いったい隊長は正体を知っているのか、知らないのか、どっちなんだ?


途中でラフな格好で伴家を訪れるミライのシーンがまた難解だ。このシーンはミライの空想なのだろうな、やっぱり。
その意図は、「この姿は今日限りにします」のセリフを、メビウスが借りている人間体の姿のことではなく、服装のこととダブらせる効果を狙っているのだろう。これで矛盾無くどっちにでも解釈できるようになっていれば、非情に深い話になるのだけど。
でも実際はこのシーンは空想であり、最後の「この姿でいさせてください」はミライの心情としてはともかく、他の人にとっては服装の話ではあり得ないわけだ。
それに上述の伴パパのリアクションがやはり問題で、両方の解釈というのを許さない。


味わい深くなる一歩手前まで行ってるのに、惜しい。
非常に重要な矛盾が残ってしまい、禍根の残る話となってしまった感じだ。


※9/19追記
コメント欄kbeat氏の指摘により、サコミズ隊長はミライの正体を知っている(知らされている)と判断せざるを得ないようです。しかし私はそれだと尚のことマズイと思わざるをえません。
実に禍根の残る話です。この話は、個人的には見なかったことにしたい。見なかったことにしたいので、だいぶ前の話ですが、新しいエントリーにはせず、古いものに追記でごまかします。


地球人に最初から正体をばらすというのがどういうことなのか。非常に大きな問題だと思います。
サコミズはGUYSの隊長であり、怪獣からの人類の防衛に責任を負う立場です。ウルトラマンと事前に意思の疎通ができるのならば、ウルトラマンを含めた作戦立案をするのが当然です。
これ以前にも、ティガやガイアなど、最終回よりもだいぶ前に正体が露見してしまったウルトラマンはいます。ガイアの時などはアグルから「俺たちの戦力も計算に入れて戦略を立てるべきだ」という提言が出ていますが、当然そういうのがあってしかるべしです。


しかも、メビウスとティガやガイアが違うのは、一つは、彼らはウルトラマンに変身できるようになってしまっただけの地球人であり、理性的に考えれば、地球人としての人格や生活に配慮してあげないといけないという点です。端から宇宙人であり、他に帰る場所のあるメビウスとは決定的に違います。
もう一つ違うのは、途中で正体が露見したか、最初からバレているかという点です。ある程度人間関係を構築した後でバレたのならば、たとえ宇宙人でも、人間ヒビノミライの人格を尊重してやりたいとか、彼だけに負担を負わせたくないとかいう情も生まれますが、最初からウルトラマンだと分かっていればそういうことにもなりません。むしろウルトラマンの負担を減らそうと思えば逆に、ウルトラマンを含めて戦略立案した方が効率的であり、結果的にウルトラマンも助かります。
さらに付言すれば、この当初時点ではメビウスウルトラマンとしての活躍をまだ全くしていない時期であり、怪獣の出現も永らく無く、ウルトラマン自体がかなり過去の記憶なわけです。そこに自称ウルトラマンという青年が現れたからって、彼を信用できるかというのもあります。好意や信頼のような感情に基づかず、理性的に契約的に協調関係を結ぶというのが、最も自然な流れだと思います。
つまり、ウルトラマン自身が人類の防衛を望んでくれている以上、理性的にも感情的にも、彼を戦略に組み入れない理由は何もありません*2ウルトラマン側のたっての希望で、他の人に正体をばらさないでほしいという要望があったのだとしても、他の隊員のあずかり知らないところで、サコミズ隊長からミライにだけは特別な指示があってしかるべきですが、しかし実際はそうなっていません。


鋭い洞察力を持った隊長にある程度正体を看破されても、その決定的証拠が無く、ウルトラマン側にもばれているという自覚が無い場合は、知らないふりでこれまでの人間関係を継続するという選択があり得ます。
不可抗力により決定的に正体がばれ、ウルトラマン側にもばれたという自覚があるが、たまたま相手が善意の人であった場合は、上記のように言いふらさない方が良かろうという理由があれば、黙っていてくれるということがあり得ます。
この2つはティガやガイアでも描かれています。バレていない状況での世界観を大筋崩さずに話を進行できるのは、この状況までです。
これを超えると大勢の人にバレてしまうという状況になり、こういう状況になるのは、ウルトラマンに限らず正体を隠すヒーローの場合は基本的に最終回近くでしかあり得ません。その理由は、世界観が大転換してしまうからです。
ウルトラマンと意思の疎通ができることが大勢に露見してしまえば、逆にウルトラマンの力なんて要らないとする自尊心や、ウルトラマンの力を自在に利用しようとする野望や、ウルトラマンの力に頼ろうとする利己主義との葛藤が主題となってきて*3、つまり描くものがまるで変わってくるのです。


要するにウルトラマンシリーズは基本的に正体を隠しているがゆえに成り立っている世界観であって*4メビウスも大筋これを踏襲しているわけですが、正体を初めからばらしているということになると、これが根底からひっくり返るのです。
正体露見を前提にするならば、それをもとに独自の世界観を構築してくれれば文句は言いません。ですがそうなっていません。だから禍根が残ると言ったわけです。


蛇足で付け加えると、サコミズ隊長が正体を知らされているとなると、彼の人物像にも大きなヒビが入ります。彼は現場でリーダーシップを取るわけでもなく、率先して作戦立案するわけでもなく、そういう点では昼行灯です。彼の唯一の魅力はその洞察力なのですが…。
ミライの正体を知っていたのなら、そのメッキがはがれます。手品もタネが分かってしまうと全くつまらなくなるように、彼の人物的魅力は地に落ちます。人物に魅力を感じられない作品というのはほぼ例外無くつまらないですな。
洞察力によって看破しているのか、知らされてしまっているのかは、とてつもなく大きな違いです。


※9/22再追記
Leo16さんからコメントをいただきましたが、サコミズ隊長がゾフィーということだと、これまた状況が変わってきます。上述のサコミズ隊長の「GUYSの隊長であり、怪獣からの人類の防衛に責任を負う」という立場も違ったものとなるし、それゆえに「言いふらさない方が良かろう」という理由も別に発生してきます。そもそも地球人ではないので「地球人に最初から正体をばらすというのがどういうことなのか」という問題提起自体が違ってきます。
ただ、その場合でもいくつか問題はあります。


まず、ミライはゾフィーだからということで選択的にサコミズ隊長に正体をばらしたわけではないということです。
ミライはサコミズ隊長がゾフィーだとは知らないでしょうから*5、ミライからすれば、サコミズ隊長ならばれても安心だということにはなりません。それにサコミズを呼び出してこの件に絡ませたのは伴パパであってミライではありません。
そういう相手に容易に正体をばらしてしまうというのは、あまりにも粗忽ではないかと思います。
正体が大勢に露見してしまえば、上述のような人間のエゴにさらされる可能性が非常に高いのです。地球に来ようと思って来たわけではない初代ウルトラマンですら、地球人類の精神構造について全くの未知の時点でも、正体を秘匿しておこうという分別はあったわけです。以降のウルトラ兄弟達も、その分別は踏襲しています。
なのになぜメビウスだけはそんな簡単に正体を明かしてしまうのか。お前はアホかという話です。実際アホかも知れませんが。
こういうアホを間近で見てて、ゾフィーは「お前もういいから帰れ」とか思わないんでしょうか。大隊長ウルトラの父の命令で来てるから勝手に降板はさせられないのでしょうか。


それに、ゾフィーはいつサコミズ隊長になったのでしょうか。
サコミズという人間は、伴パパと旧知であることからもわかる通り、昔から存在しており、突然どこかからポッと現れたような人間ではありません。
ゾフィーはかなり昔からサコミズを仮の姿として地球にいたか、最近になって地球人サコミズの身体を借りたかのどちらかです。
しかし、宇宙警備隊隊長という重責にあるゾフィーが、25年間怪獣の襲撃も無く平和だった地球に滞在してたなどという可能性はあるのでしょうか。他の兄弟も神戸に在住したりしてるから、あり得ないというわけでもないですが。でも隊長ですからね、他の兄弟とは立場が違います。過去の怪獣頻発期だって彼だけは常駐してなかったわけですし。
それに、以前からいたにしては、サコミズ隊長は、どう見てもマン、セブン、ジャック、Aの人間体である神戸在住のハヤタ、モロボシダン、郷秀樹、北斗星司より若く見えるんですよ*6。まあ、仮の姿だから見た目の年齢なんて関係無いし、2万歳前後のウルトラマンと地球人の年齢感覚は違い過ぎるわけだけど、それでも他の四兄弟は地球人の暮らしとして違和感無いように、年月と共に歳相応に老けているのに、サコミズ隊長だけ若いというのはやっぱりオカシイ。


では最近になってやってきたのだとすれば、ではどうやってサコミズ隊長の身体を借りたのか。
ウルトラマンが地球人の身体を借りる時というのは、過去の例からすれば*7、その地球人が死んだ時、あるいはそれに近い瀕死状態の時なんですよね。まあ、死ななくても一時的に憑依して操るということはできるみたいですが、サコミズ隊長の場合はそれじゃないでしょう。
でも、怪獣やっつけ隊の隊長のような都合のいい立場の人間が、そう都合いいタイミングで死んでくれるでしょうか。セリザワ隊長とかはまさにうってつけでしたが、ツルギに取られちゃったし。
まあ、ゾフィーがサコミズ隊長をムッ殺して、無理矢理身体を乗っ取ったという可能性はあり得ますが*8。それは冗談として、でもゾフィーはいつからサコミズ隊長なのかというのは非常に気になるところとなるのですが、たぶんそんなのは語られないで有耶無耶なんだろうな。

*1:写真も無いので

*2:ウルトラマンの力など借りたくないという自尊心から、彼を排斥するという可能性はあり得ますが、サコミズ隊長がそういう性格でないのは明らかです

*3:バレていない状況でもエピソードとしてあることはありますが、これが重要な主題になってくる

*4:ネクサスを除く

*5:これまでの描写上で知っているような素振りはこれっぽっちも無い

*6:そりゃそうだ

*7:世界が繋がっているウルトラ兄弟+αに限れば

*8:ヒドイ